変な夢

なんか変な夢を見ていた。
煙に巻かれてどこが上か下かもわからない。地面に足が着いているのかもわからない・・・一体どうなってるんだよぅ、うなされて僕は目が覚めた。
暗い部屋で目を開けると、いつもなら天井が視界に入るのはずなのに、白い女の顔が目に飛び込んできた。
「うわぁあああ」僕は思わず飛び起きた。
目を凝らすと暗がりに瞳がキラキラと輝いている。
「どおしたのぉ?すごいうわごと言ってたんだけど」
そうだ、昨日の晩僕は女の子を連れて帰ってきてたんだ。
彼女は立ち上がるとスタスタと歩いて台所に行き、冷蔵庫からペットボトルを持って戻ってきた。
「はい」
僕は差し出されたペットボトルを受け取ると、一気に飲んだ。
「ん?」なんだ?水・・じゃない・・のか?
それを見て彼女はニッっと笑った。
「どお?美味しくない?あたし特製のスペシャルドリンク」
特製って、ただの冷えた砂糖水じゃないか。でも、それは不思議な味だった。なんか懐かしい味。そうして昂ぶった気分はだんだんと落ち着いてきた・・・。
「砂糖水はねぇ体にいいんだよ。でも、しょちゅう飲んだらいけないの」
そう言って彼女は大事そうにペットボトルの蓋を閉めた。
「どこから来たんだ?」
僕はまだこのコからなにも聞いてないことを思い出して聞いてみた。
ペットボトルを通してキラキラする瞳が僕をじっと見た。そしてすこし低い声で彼女は言った。
「あなたは偶然あたしと逢ったんじゃないの。逢うべくして出会ったんだよ。あなたはあたしを待っていたの」
・・・ボクガカノジョヲマッテイタ?・・・
ポカンとする僕を見つめながら彼女は続けて言った。
「あなたがあたしを呼んだってゆうのが正しいかな。あたしはそれに答えて現れただけなんだよ」
そこまで話すと彼女は僕に顔を寄せてきた。
動けない。金縛り?いや、ちがうな。でも僕の体は硬直している。
「抱いてもいいんだよ。好きにしてかまわない」
そうゆうとTシャツをバッと脱ぎ僕の目の前に眩しい裸体を晒した。
それは本当に眩しかった。白く透き通るような肌、栗色の長い髪。そして、あのキラキラと輝く瞳。煤けた捨て猫娘はどこにいったんだよ。
僕はその光景を見るだけで精一杯だった。
白い柔らかな指が僕の顔に触れた。
「どうしたの?あたしじゃ嫌?」
彼女は少し寂しそうな表情を浮かべた。
「違うよ、けど・・・体が動かないし、なんてゆうか、このままで充分な気分なんだ」
「充分?」
一瞬、彼女の瞳に光が走った気がした。
「君の言ってることが判らないんだ。なんで僕は君を呼んだんだ?。僕はなんのとりえもない普通のサラリーマンなんだ。しかも上司にはいっつも怒鳴られてるし、財布は落とすし・・・最悪なんだ・・ぜ・・・」
柔らかな人差し指が僕の唇を止めた。
「神様って知ってる?」
僕はうなずいた。けど彼女はその動きに満足してないようだった。
「あなたの神様って、みんながゆう神様でしょ?」
「ほかに神様っているのか?」
彼女はヤレヤレとゆう顔をした。
「見て!」
そう言って携帯電話の画面を見せてくれた。そこには細かい文字がズラズラと並んでいて、赤い文字で「神様募集」とか「神様いませんか?」と書き込みがされていた。
「なにこれ?」思わず僕は彼女に聞いた。
「判りやすくゆうとぉ、援交、援助交際だよ」
なに?援助交際?
「御飯食べさせてくれたり、泊まらせてくれたりする人を神様って呼んでるんだよ」
「じゃあ僕は援交の相手を呼んでいたってゆうのか?」
彼女は首を振って優しい視線で僕を見た。
「ちがうよ。神様は今風に使ってみたの。あなたがどんな行動をとるか、あたしにどうするかって」
どうするもなにも、今の僕は女の子相手になにをする気にもなりゃしない。今の自分をどうするかで一杯一杯なんだ。
なのに僕が彼女を呼んだ?なんか無性に腹が立ってきた。
「いきなり飛び出してきて、今度は僕が呼んだって、なんだよそれっ!」
イライラしていた。これまでのストレスが一気に爆発しそうだった。
毎日毎日、我慢して自分自身を押さえつけて・・・
なのに僕がなんでこんなコを呼ぶんだよ!
フッと気がつくとさっきの夢の空間だった。
ちょっと待ってくれよ、頭がおかしくなったのか?
すると目の前に彼女が現れた。
「我慢なんて必要以上にしたら駄目なんだよ。そんなことしてると本当にボロボロになってしまうから・・・」
そう言って微笑んだ。
「あなたはあたしを部屋に呼んでくれて本当に気を遣ってくれた。普通なら押し倒してきたりするよ。でも、あなたは優しかった。でもね、多分限界だったのかもね。あなた自身ギリギリだっ、って思っていたんだよ。あなたは優しすぎる。もっと自分を大切にしないと。人の為に自分を犠牲にしては駄目よ。裸のあたしを見て充分だって言ってたでしょう?でも本当はやりたかったでしょ」
僕は気持ちを見透かされて顔が赤くなった。
「ふふふっ、それがあなたらしいとこ。でもね、それじゃあチャンスを逃がしてしまうよ。女の子だけじゃなくて、全て。・・・そうだっ!怒鳴ってごらんよ。あなた怒鳴ったこと、ないでしょ?」
そういえば僕は怒鳴ったこともないし、人前で怒ることもない。
「ほらぁ、うわぁあああああって、やってごらんよ」
彼女に言われて僕は今まで出した事のない大声で叫んだ!
自分でも驚くような大声が出た。一体どのくらい叫べるんだろう。
でも、とにかく僕は叫び続ずけた。

そして・・・・

気がつくと僕は自分の部屋のベットの上で目が覚めた。
なんか・・・今までとちがった目覚めだった。
こんなに頭がスッキリした朝って初めてじゃないかな。
起き上がりあたりを見回した。
そうだっ、彼女は?あのキラキラする瞳の女の子は?
けれど彼女の姿は無かった・・・。
夢?だったのか。でも、確かに彼女はいた。
床の上に・・・ペットボトルが転がっていた・・・
うまく思い出せなかった。彼女となにを話したんだ。

「いい?自分自身をなくしちゃ駄目だよ。我慢はほどほどに。ネ!」

聞こえた!彼女の声だ。
そうか・・・自分自身をなくしては駄目なんだよな。
もう少しで自分を見失うかもしれなかったんだね。今日から少しずつでも変えていかないと・・・

僕は窓の外に広がる空を見た。

そこには白い羽がふわふわと舞って、どこかに飛んでいった。